紙は情報を伝えるための重要なメディアですが、一方で紙工作・模型などの素朴な遊びから立体造形・現代アートにまたがる、幅広いアート表現の素材という面も持っています。
私はデザインや広告に関わりながら、紙のイラストやディスプレイ、オブジェ、玩具など紙であれこれ作ってきましたが、あるときフト「紙って折りたためるところが面白い」ということに気が付きました。あらたまって言うほどでもないのですが、例えば四角の紙を半分に折っただけで、「立体」として自ら立つてその状態を保つことができ、折り目をたたむと元の「平面」に戻ります。紙が折りたためるって当たり前だけど面白いことなのです。同じことを他の材質、例えば木、金属、布などでやろうとすると、特別な加工や技術が必要になります。紙にしかないこの特質を生かせば、今までなかった面白い立体ができるのでは、と感じました。
おぼろげなイメージを確かめようと、ラフスケッチをする要領で紙を折ったり切ったりしていると、時々思いがけないフォルムや空間が生まれることがあります。こうした紙の折りたたみのメカニズム(ペーパーエンジニアリング)をイメージ発想の出発点にして、動物、建物、樹木などのシリーズを制作・発表しています。
「折りたたメール」の特徴をまとめてみました。
●折りたためることからイメージを発想する。
スケッチ代わりに作りためた折りメカを、ひっくり返したり、いくつかジョイントしたり、違う折りメカと組み合わせたりしながらイメージを展開して行きます。作品として見る人にイマジネーションやメッセージを感じてもらうために、実物を真似ることから飛躍する必要があり、私にとって「折りたためる」という条件が、そのバネになっているようです。
●技法は「切る」「折る」「組む」。
「切る」はフォルムや空間をかたち作る作業です。「折る」ことで平らな紙は立体になり、構造・強度を持ち立体を保つことができます。人体でいえば骨組みのようなものです。「組む」は出来あがったユニットをジョイントして作品を完成させる作業です。
紙の造形には、ほかに「曲げる」(カーブさせる)技法があります。これにより陰影が生まれ豊かな立体感を表現できますガ、折りたたメールでは紙を「板」として使うので、技法としてはほとんど使用しません。
●ユニットをジョイントする。
折りたたメールは数個から十数個のユニットをジョイントする方式で作られています。図は、四角柱ユニットをジョイントする概念図です。必要な表現は個々のユニットにすべて含ませます。後からパーツを付け加えて完成させることはしません。紙は加工が容易でパーツをどんどん増やせますが、それに依存しない表現方法です。したがって図面にする段階でイメージの全体像を決めておきます。ユニットには、二つ折り、四角柱、角錐、らせんなどのいくつかの基本形とそのヴァリエーションがあります。
●パズル性
立体であることの楽しさ面白さを出すために、どの方向から見ても変化のあるフォルムにしたいと思っています。例えば当サイトのトップページの「もつれ樹」(ここをクリック)の場合は、8個あるユニットが似ているようで違う形なので、図面を描いたり組み立てるとき、まるでパズルでもやっているようでした。
●イメージとオリジナリティーを大切に。
折りたたメールの作品はすべて折りたたむことが出来ます。保存や郵送に利点がありますが、もちろんそれを目的にした造形ではありません。やはりいちばん大切なことは新鮮なイメージとオリジナリティーで、それを得るためのひとつの方法が、折りたためるということだと思っています。ユーモアやファンタジーや皮肉といった、目に見えないものを造形のコトバで語れたらと思っています。
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